絵本作家インタビュー

vol.68 絵本作家 高畠純さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『おとうさんのえほん』『おどります』などでおなじみの絵本作家・高畠純さんです。思わず笑顔がこぼれてしまう、ユーモアあふれる絵本の数々は、どのようにして生まれたのでしょうか? 中川ひろたかさんとの人気作「だじゃれ」シリーズをはじめ、人気絵本の制作エピソードも伺いました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・高畠純さん

高畠 純(たかばたけ じゅん)

1948年、名古屋生まれ。愛知教育大学美術科卒。1983年、『だれのじてんしゃ』(フレーベル館)でボローニャ国際児童図書展グラフィック賞受賞。『おとうさんのえほん』『おどります』(絵本館)、『だじゃれレストラン』『だじゃれどうぶつえん』などの「だじゃれ」シリーズ(文・中川ひろたか、絵本館)、『オレ・ダレ』『おっとっと』(講談社)、『ペンギンたんけんたい』などの「ペンギン」シリーズ(文・斉藤洋、講談社)、『わんわん わんわん』(理論社)など、200冊以上の絵本を手がける。

絵本だからこそのおもしろさ「だじゃれ」シリーズ

どうするどうするあなのなか

▲深い穴に落ちてしまった野ねずみと山猫が、穴から出る方法を考える『どうするどうするあなのなか』(福音館書店)。文はきむらゆういちさん

僕はほかの人のテキストに絵を描くことも多いんですが、その際は、作者の意図をしっかり理解して、大事にすることを心がけています。絵本の絵はただの説明図になっちゃいけなくて、プラスアルファを描く必要もある。だから、そのテキストを最大限に生かすにはどうするのがいいか、ということを考えた上で、絵としての表現を追求していくんです。

きむらゆういちさんとの『どうするどうするあなのなか』のときは、穴の深さを表現するために、縦開きにしたらどうかと提案しました。あと、あのお話は現実の部分と想像の部分があるので、それがすぐ区別できるようにという工夫もしてあるんですよ。

中川ひろたかさんとの「だじゃれ」シリーズの場合は、一冊に30のだじゃれを収めているんですけど、実際はその倍、60くらいのだじゃれのテキストをもらってるんです。それを見て僕は、たとえば「クラブかつどん」なら、かつ丼をクラブ活動っぽく描くにはどういう絵にしたらいいかなっていうのを考えるんです。

中には、絵にしてもわからないだろうっていうのもあるんですよ。たとえば、『だじゃれレストラン』の“サラダ”のだじゃれ。絵本に収められたのは「サラだバー」なんですけど、最初にもらったのは「サラダケンジ(沢田研二)」だったんです。これ、今の子どもたちにはわかんないよなぁ?と思ってね(笑) だからそういうのはボツにして、絵と組み合わせてよりおもしろいものだけ、選んで描いていきます。

だじゃれレストラン

中川ひろたかさん×高畠純さんの人気作「だじゃれ」シリーズ。『だじゃれレストラン』では、さまざまなメニューがだじゃれに! ほかに『だじゃれどうぶつえん』『だじゃれすいぞくかん』など、全5冊が出版されています(いずれも絵本館)

このシリーズは、どれも絵と一緒になって初めてだじゃれになるものばかり。文章としてのだじゃれにしてないのがえらいですよね。だからこそ絵本にする意味があるわけだから。「はやしライス」と「もりそば」みたいに、見開きで組み合わせているのもあるので、そのあたりも含めて楽しんでもらいたえたらうれしいです。

いつまでも新鮮な気持ちで絵本をつくりたい

オレ・ダレ

▲色へのこだわりから、印刷にも立ち会ったという作品『オレ・ダレ』(文・越野民雄、講談社)。年明けにパート2が出るそうです。

絵本をつくる上で大切にしているのは、色ですね。線をひくと、そのまわりの色が頭に浮かぶんですけど、ときどき画面から呼ばれるようにして、思いも寄らない色が浮かんでくることがあるんですよ。そんなときは、自分が新しくなった感じがして、うれしくなります。

最近は、ドローイングとコラージュを組み合わせた作品もよくやるんですね。コラージュはきっちり下書きをせずにつくっていくから、自分でも何が出てくるのかわからない。それがちょっと楽しいんです。

これまで大学で美術を教えてたんですけど、去年退職して、その分の時間を制作にあてられるようになったんですね。それまでも制作のための時間がすごくほしかったんで、今はやたらずっと制作してます。

にょきにょきのき

▲ドローイング+コラージュで描かれた『にょきにょきのき』(文・斉藤洋、講談社)

これからも、今までとは違うものをつくっていきたいですね。ユーモア路線というのはあるとしても、今度はこうきたか!と思わせるようなところがある作品がいい。これまでにもたくさん絵本をつくってきたけれど、慣れでつくってるようには思われたくないし、自分自身も、いつも新鮮な気持ちで制作に臨みたいんですよ。だから、それまで使っていなかったような色を使ってみたりとか、いつもとは違うペンで描いてみたりとか、いろんなことに挑戦したいですね。

息子の那生(なお)も絵本作家なんだけれど、作風が僕とは全然違う。それがいいなって思っています。何も教えていないから、僕も気持ちよく那生の作品を楽しませてもらってますよ。

絵をじっくり見れば 絵本はもっと楽しくなる

絵本作家・高畠純さん

大人になると、絵本を見るときに、文字だけを目で追ってしまいがちなんですよね。文章だけを読んで、なるほどこういうお話ですか、はいはいって、わかった気になってしまう。でもそれってちょっともったいないなと思うんですよ。

子どもは、文字よりも絵を見てますよね。あそこに何があったとか、細かいところまでよく覚えてるのは、絵をじっくり見ているからなんです。だから大人もそういう味わい方をすると、絵本がもっと楽しくなるんじゃないかな。

ひとつひとつの絵にはきっと何か込められるはずだから、色とか形とか、登場人物の表情とか、全体的な雰囲気とか、いろいろと感じながら味わうと、文字だけとは違う世界がぐっと広がると思います。

あと、絵本を読んだあとは、子どもに感想を聞かないように。「どこがおもしろかった?」とか聞いちゃだめです。読書感想文を書けなんて言われたら、大人でもいやでしょう? 小学生になると、「こんなこと書いておけば先生が喜ぶだろう」なんて感じで感想文もパターン化されていくけど、そういうのを小さい頃からさせるっていうのは、いやだよね。

絵本を読んでいるとき、子どもたちがノリにのって喜んでくれたら、それだけでお母さんたちも十分うれしいと思うんです。絵本の中身がどうだったかということよりも、絵本を通してその場のコミュニケーションを楽しむことの方がずっと大事。絵本を読むときにひざの上に座らせてもらったこととか、そのときのお母さんのぬくもりだとか、そういう思い出の方がきっと心に残るんだと思いますよ。


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