絵本作家インタビュー

vol.68 絵本作家 高畠純さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『おとうさんのえほん』『おどります』などでおなじみの絵本作家・高畠純さんです。思わず笑顔がこぼれてしまう、ユーモアあふれる絵本の数々は、どのようにして生まれたのでしょうか? 中川ひろたかさんとの人気作「だじゃれ」シリーズをはじめ、人気絵本の制作エピソードも伺いました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・高畠純さん

高畠 純(たかばたけ じゅん)

1948年、名古屋生まれ。愛知教育大学美術科卒。1983年、『だれのじてんしゃ』(フレーベル館)でボローニャ国際児童図書展グラフィック賞受賞。『おとうさんのえほん』『おどります』(絵本館)、『だじゃれレストラン』『だじゃれどうぶつえん』などの「だじゃれ」シリーズ(文・中川ひろたか、絵本館)、『オレ・ダレ』『おっとっと』(講談社)、『ペンギンたんけんたい』などの「ペンギン」シリーズ(文・斉藤洋、講談社)、『わんわん わんわん』(理論社)など、200冊以上の絵本を手がける。

『ピースランド』で見つけた自分なりのスタイル

ピースランド

▲のどかな島の一日を描く、高畠純さんの初期の作品『ピースランド』(絵本館)

子どもの頃は、近所の仲間たちと鬼ごっこやかくれんぼをして遊んでました。あとは、近くの神社にあったものすごく大きな木に登ったり、ブランコをつくったり、かまぼこの板でつくった舟を池に浮かべたり……今と比べると超アナログな遊び方ですよね。夏休みには電車で海水浴に行ったりしてね。今でも僕、夏休みが大好きなんですよ。夏休みを生き甲斐にしてるくらい(笑)

絵を描くことは、たぶん小さい頃から好きだったんでしょうね。幼稚園のときだったかな、自分で紙芝居をつくっていた記憶があって。確かシカが出てくるお話でした。描いていたとき、外は雨が降っていて、畳が湿っぽかったよなぁって、なぜかそんな感触まで覚えています。

絵本の世界に憧れるようになったのは、高校生のとき。名古屋の丸善で世界の絵本の原画展を見て、こういう世界いいよなぁと思ったんですよ。その原画展は年に2回やっていたんですけど、それからは毎回欠かさず見に行ってましたね。

20代半ばぐらいに、それまでに描いてきたイラストを出版社の人に見せる機会があって、それを機に絵本の仕事をするようになりました。単行本として初めて出た『だいくのせいさん』(文・小野寺悦子、ポプラ社)は、自分としてはかなりがんばって描いた絵本で、絵のタッチが今とは全然違うんです。僕はもともとがんばるのがいやなタイプなので、このままいくとちょっとなぁ……って思ってたら、別の出版社から今度は「好きに描いて」と言ってもらえたんです。

それじゃあ好きに描かせてもらおうってことで、できあがったのが『ピースランド』。描きたい絵だけばーっと、パンフレットみたいに並べてつくった絵本なんですけど、僕としてはすごく気持ちよくつくれたんですよ。今の僕の原型にもなっている絵本ですね。

動物の姿を借りて、さまざまな性格を描く

おとうさんのえほん

▲うちのお父さんはどれかな? いろんなお父さんをユーモラスに描く『おとうさんのえほん』(絵本館)

僕が絵本をつくる上で大切にしているのは、気持ちのリアリティです。けんかした友達同士がすぐ仲良くなるなんてありえないのに、絵本ではそういうのが結構多いじゃないですか。仲良くしなきゃだめだよね、みたいな都合のいい話。そういうのって、リアリティがなくて嫌いなんですよね。

でも、リアルに描きすぎると生々しいし、押しつけがましくなる。だから、動物の姿かたちを借りて描くことで、笑いに変えるんです。そしてなるべくさりげなく、さらりとリアリティを出したいなと思っています。

たとえば『おとうさんのえほん』では、力持ちのお父さんや、子どものためにはりきるお父さんなど、いろんなお父さんを描いたんですけど、これをそのまま人間のお父さんとして描くと、ものすごく生々しくなっちゃう。ユーモアにならないんです。だからゴリラやペンギンなどの動物として描いて、笑って楽しめる絵本にしたんですね。

それから、人間よりも動物の方が、いろんな性格をわかりやすく描ける、というのもあります。人間の場合、服や表情を多少変えたところで、ぱっと見ただけだとなかなか性格まではわかりにくい。でも動物の場合、ゴリラなら力が強い、ナマケモノならなまけ癖がある、という感じで、そこからかもしだすイメージがあるでしょう? 動物の姿かたちを借りると、わかりやすく表現できるんですよ。

寝起きに思いついた「おどります、メケメケフラフラ」

おどります

▲次々と踊り出す動物たちの表情に、思わず笑ってしまうこと間違いなし!『おどります』(絵本館)

絵本をつくるときは、最初にアイデアとビジュアルが浮かびます。ほぼ同時進行的に浮かぶかな。それを広げて絵本にしていくんです。

朝はたいてい、犬の散歩に行くんですけど、いったん帰って犬を家に置いてから、考えごとをするためにまた一人で散歩に出ることがあるんですね。考えながら歩いていると、「このコーナーを曲がったら浮かぶぞ」っていうのが、なんとなくあるんですよ。で、実際に曲がったとたん、浮かんだりする。たぶんそうやって自分で緊張を高めることで、何かが生まれてくるんでしょうね。

あと、寝起きに思いつくこともあります。もうすぐ起きるぞ、でもまだ眠たいぞっていう状態のときにぐーっと考えると、ぱっとひらめくことがあるんですね。そういうときにひらめいたいいものって、起きても忘れないんです。悪いものは忘れちゃうけど。

『おどります』も、寝起きに思いついたんですよ。「○○がおどります、メケメケフラフラ…」というのがふっと浮かんで、「よし、これでできたな」と。それで、「○○がおどります、メケメケフラフラ…」の繰り返しだけの絵本をつくりました。そしたらやっぱり子どもたちが喜んでくれたんですね。ページをめくって「まただ~!」って感じで。

ただ実際のところ、なんで子どもがあんなに喜ぶのか、つくった自分でも半分くらいはわからないんですよ。自分自身おもしろがってつくってるから、「これはいける」みたいな手ごたえはなくはないんですけど。だから、子どもたちを前に初めて読むときは、ドキドキしますね。ときどき幼稚園に行って子どもたちの前で自分の絵本を読むことがあるんですけど、ウケようなんて邪悪な心が入ってきたりするもんだから、読み方もぎこちなくなっちゃったりして(笑)

ちなみに、僕は以前、犬に読み聞かせしたことがあるんですけど、犬は絵本にまったく興味ないみたい。いろんな犬種で試したけど、どの犬も知らん顔。絵本に反応するっていうのは、やっぱり人間ならではのことみたいですね(笑)


……高畠純さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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