絵本作家インタビュー

vol.65 絵本作家 山口マオさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『わにわにのおふろ』をはじめとする「わにわに」シリーズでおなじみの絵本作家・山口マオさんです。味わいのある木版画で描かれたお茶目でワイルドな「わにわに」は、ミーテでも大人気! 「わにわに」の誕生エピソードや絵本づくりで大切にしていること、絵本の魅力についてなど、たっぷりとお話しいただきました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・山口マオさん

山口 マオ(やまぐち まお)

1958年、千葉県生まれ。東京造形大学卒業。イラストレーター、画家、版画家として、木版画を中心に、絵本、雑誌、広告、グッズなど、さまざまな分野で活躍する。主な絵本作品に『なりました』(文・内田麟太郎、鈴木出版)、『わにわにのおふろ』『わにわにのおでかけ』などの「わにわに」シリーズ(文・小風さち、福音館書店)、『はっぱみかん』(文・風木一人、佼成出版社)、『はすいけのぽん』(文・古舘綾子、岩崎書店)、『オオカミがやってきた!』(文・うちだちえ、童心社)などがある。

画家気分で描いていた子ども時代

絵本作家・山口マオさん

僕は3歳ぐらいの頃から絵を描くのが好きで、いつも描いてました。幼稚園のときの自由画帳が手元に残ってるんですけど、鉄人28号やエイトマンの絵、飛行機や戦車の絵もあれば、時計屋さんの絵やペンギンの親子の絵なんかもあって、今自分で見ても、なかなかいいんですよ。

それから、東京に住むおばあちゃんが遊びに来ると、必ず目の前に座らせて似顔絵を描くというのが毎年恒例になっていたんです。当時の僕としては、肖像画のつもりだったんですよね。まるで画家のような気分で描いてました。

小学校に上がると、自分より絵のうまい子はたくさんいるんだって気づくわけですが、そういう子たちは勉強も運動も得意だったりして、次第に絵を描かなくなってしまうんですね。気づいたら、高校生になっても絵を描き続けていたのは僕だけだった、という感じ。ずっと絵を描き続けるためにも、将来は美術の先生になろうと思って美大に入学しました。教職課程の授業があまりにもつまらなくて、結局資格が取れずに、先生の道は途絶えたんですけどね。

その後、大学在学中からイラストレーターとして活躍していた友人に刺激を受けて、イラストレーターを目指すようになりました。版画のイラストで賞をもらったことで、木版画イラストレーターとしていろいろと仕事を請けるようになって。福音館書店の月刊誌「おおきなポケット」でワニの話にイラストを描いたのが、絵本の世界にかかわるようになった一番最初の仕事です。そのときのワニの絵がきっかけで、『わにわにのおふろ』の絵を描くことになったんです。

本物のワニを観察して描いた「わにわに」

作者の小風さちさんによると、「わにわに」の誕生は、石神井公園にワニが出たという騒動がきっかけになっているそうです。小風さんもワニに会いたいと思って、探しに行ったらしいんですけど、結局ワニは見つからずじまい。でも小風さんの中ではワニ熱が冷めなくて、ひょっとしたら、うちのお風呂場にワニが潜んでいるんじゃないか?……そんな想像から『わにわにのおふろ』ができあがったということらしいんです。

わにわにのおふろ わにわにのごちそう
わにわにのおでかけ わにわにのおおけが

▲小風さちさんと山口マオさんの人気絵本「わにわに」シリーズ。お茶目でワイルドな「わにわに」はみんな釘付けです! 『わにわにのおふろ』『わにわにのごちそう』『わにわにのおでかけ』『わにわにのおおけが』(いずれも福音館書店)

「わにわに」を描くにあたって小風さんから言われたのは、「洋服を着ているような、擬人化されたワニではなくて、普通の動物のワニを描いてください」ということ。それから、「できれば取り組む前に、熱川バナナワニ園で本物のワニを見てください」とも言われたんです。それで、編集者と二人でバナナワニ園に行って、本物のワニを観察してきました。ワニのリアルな迫力を肌で感じてから、わにわにの制作に入ったんです。

シリーズの中でも特に気に入っているのは、『わにわにのおでかけ』です。「わにわに」の絵本をつくるとき、たいていは、小風さんのテキストをもとに僕がラフを描いて、何度か直しのやりとりをしてから最終的な形をつくっていくんですけど、『わにわにのおでかけ』については、ほとんど直しが入らなかったんですよ。僕が住んでいる南房総の千倉あたりを舞台に、「こんなに自由にやっていいの?」っていうくらい、好きにやらせてもらってできあがった作品です。自分らしさみたいなものが、結構出せたんじゃないかなと思っています。

テキストのおもしろさを最大限ひきだす絵

『オオカミがやってきた!』

▲うちだちえさんの「絵本テキスト募集」優秀賞受賞作『オオカミがやってきた!』(童心社)。ひつじたちが考えるさまざまな作戦が見もの!

僕は、自分で作・絵を手がけた絵本はまだつくってないんです。つくりたいとは思っているし、そういう話もいくつかもらってはいるんですけど、なかなかできなくて……できたら持っていきます、そのうちね、みたいな状態で。今のところは全部、人が書いたテキストに絵を描いています。

僕の仕事は、渡されたテキストのおもしろさを最大限ひきだすように絵を描くこと。お話をもらったら、まずは自分でおもしろがります。そして、おもしろいと感じた部分を絵にしていくんです。

『オオカミがやってきた!』だと、「山のふもとに、ひつじの村がありました」から始まるんですが、そのひつじの村をどう描くのが一番いいか、考えるわけです。僕は、ひつじたちが草を運んでいたり、畑を耕していたり、そこにお茶を持ってくるひつじがいたり……と、人間の暮らしをなぞらえながら、ひつじたちが生活を楽しんでいる雰囲気を描きました。ひつじがオオカミに注射をするシーンは、ものすごく怖いひつじをイメージして、牙みたいな歯まで描いたんですよ。ひつじは草食動物だから、実際にはそんなとがった歯はないんですけどね。

僕は自分で自分のことを“憑依型イラストレーター”って呼んでるんです。テキストを書いた人の世界にどっぷりひたって、その人のスピリッツを自分に憑依させて絵を描くようにしてるんですね。テキストを書いた人や、お話の登場人物によって、それぞれの世界がありますから、独りよがりにならずに、そのお話の世界をちゃんと形にしていきたいなと思っています。

自分の体を通って出ていくときに、自分らしさが自然に出てくれば、それでいい。それ以上に自分らしさを主張してしまうと、いやらしいものになってしまうんじゃないかなって気がするんですよね。


……山口マオさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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