絵本作家インタビュー

vol.60 絵本作家 長谷川摂子さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『めっきらもっきらどおんどん』でおなじみの絵本作家・長谷川摂子さんです。元・保育士で、4人のお子さんのお母さんでもあり、今も「おはなしくらぶ」で子どもたちに絵本を読み続けている長谷川さんに、絵本の魅力や楽しみ方の極意を伺いました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・長谷川摂子さん

長谷川 摂子(はせがわ せつこ)

島根県生まれ。東京外語大学でフランス科を専攻。東京大学大学院哲学科を中退後、公立保育園で保育士として6年間勤務。主な絵本に『めっきらもっきらどおんどん』『きょだいなきょだいな』(絵・ふりやなな)、『クリスマスのふしぎなはこ』(絵・斉藤俊行)、近著に『絵本が目をさますとき』がある(いずれも福音館書店)。現在は「おはなしくらぶ」で、子どもたちと絵本を読んだり、詩やわらべうたを歌ったり、ストーリー・テリングをしたりしている。

絵本で始めよう 赤ちゃんとのコミュニケーション

※長谷川摂子さんは2011年10月18日にご逝去されました。故人のご功績を偲び、心からご冥福をお祈りいたします。

『めんめんばあ』や『くらいくらい』といった赤ちゃん絵本をつくるときには、テキストをシンプルにするように心がけました。「なんとかがなんとかしました」みたいな文章って、読んでいる間に赤ちゃんがすっと離れていってしまうんですよ。自分で読んでいてそれがよくわかっていたので、お母さんの声に乗って、子どもにストレートに通じるテキストが一番だなと思って。それと、歌うように読めること、リズム感があること、そこも忘れずに盛り込みました。

めんめんばあ
おでかけ ばいばい
くらいくらい

▲赤ちゃんと一緒に楽しく遊べる絵本『めんめんばあ』『おでかけばいばい』『くらいくらい』(いずれも絵・やぎゅうげんいちろう、福音館書店)

赤ちゃんはまだ言葉がしゃべれないけれど、表情とか泣き声、笑い声、ちょっとした喃語などの中に、コミュニケーションできる要素がたくさんあると思うんですね。それを引き出してくれる絵本というのがあって、そういう絵本を読むと、赤ちゃんがケタケタ笑うんです。それを見ると、あなたもわかるのねって、とっても愛おしくなっちゃう。あなたも私も同じ人間で、こうやってひとつの絵本を一緒に体験してるのねって。

そこには、お母さんの声が必要不可欠です。お母さんの声がなければ、絵本は赤ちゃんに届かないんですよ。だから、だまっていてはだめ。お母さんの声と赤ちゃんの笑い声、これって大きな意味で、コミュニケーションの始まりだと思うんです。その喜びを味わえれば、赤ちゃんとのコミュニケーションはものすごく広がっていくんじゃないかって気がするんですよ。

だから、「ブックスタート」って、0歳児健診などで赤ちゃんに絵本を手渡す活動がありますけれど、「コミュニケーションスタート」って言ってもいいんじゃないかな。そこから始まって、言葉かけをして、赤ちゃんが片言ながら声を出してお母さんとやりとりできるようになると、今度は「カンバセーションスタート」。そこから物語絵本とか、いわゆる読み物を楽しむようになるのはもうちょっと先のことですが、人間関係を築く上での一番の地盤となるのは、やっぱりコミュニケーションだと思うんですよね。それを絵本を読むことで、体験できるわけです。赤ちゃん絵本から読み聞かせを始めることの大切さは、そこにあるんだと思います。

子どもとの絵本の時間は人生のゴールデンタイム

『絵本が目をさますとき』

▲子どもへの思い、絵本への思いを、若い母親“K子ちゃん”への手紙にこめてつづった絵本案内『絵本が目をさますとき』(福音館書店)

私が今も子どもたちに絵本を読むことを続けているのは、その楽しさを手放したくなかったから。保育園で子どもたちに絵本を読むのが、本当に楽しかったんですよ。

たくさんの子どもに絵本を読んでいると、絵本の力をものすごく感じるんです。保育園にはいろんな子がいるでしょう。絵本を読むことで、さまざま子がみんなひとつになって、ぎゅーっと集中するわけですから。集中してくると、子どもたちと私の間の空気が、ゼリーみたいに固まってくるんです。それはつまり、子どもと私とが一緒に本の世界にどっぷり入っているということ。その充実感は、集団読みの特色だと思います。

もちろん、自分の子どもに絵本を読むことの楽しさも、たくさん味わいました。自分の子どもとは生活を共にしているので、読んだ絵本の中の言葉とかが、意外な場面でぱっと出てきたりするんですよね。絵本を読みながら歌っていた歌を、自然と口ずさんでいたりとか。そんな風に、絵本と暮らしの結びつきが見えるのは、家での読み聞かせの楽しいところですよね。

子どもに絵本を読む時間というのは、親にとってもかけがえのない、喜びの時間。いわば人生のゴールデンタイムです。今まさに子育て真っ最中という方は、そのゴールデンタイムを我が子とともに存分に味わえるんですから、うらやましいですよ。子育ては大変なこともありますが、絵本を楽しみながら、子どもとの毎日を大切に過ごしてくださいね。

子どもが「もう一回」と繰り返しせがむ理由

絵本作家・長谷川摂子さん

子どもって、同じ絵本を繰り返し読んでとせがむでしょう。なぜかというと、子どもは音楽を聴くように絵本を聞いているからだと思うんです。私たちも、いい音楽を聴いたとき、気に入ったメロディーのところで一緒に歌いたくなりますよね。子どもたちも同じなんです。好きな絵本を繰り返し聞くことで、言葉の流れを身体に刻み込んで、一番気に入ったところを自分自身で再生できるようになりたい。再生できるようになるのがとてもうれしくて、「もう一回」と何度もせがむ。だから覚えちゃうんですよ。

そんな風に言葉の流れを身体に刻み込むなんて、すごい能力ですよね。その時期の子どもは、そうやってどんどん言葉を吸収していくんです。そう考えると、子どもの「もう一回」というリクエストは、とても愛おしいでしょう。だから繰り返しをいとわずに、何度でも読んであげてくださいね。

最後に、子育て中のお母さん、お父さんへ。子どもを育てていると、「こういう風に育てたい」っていう理想を追求することに一生懸命になってしまいがちですよね。そのとき子どもがどんな表情をしているか、しっかり見ていますか? いろんなおけいこごとをさせて、あれもこれも身につけさせたいというのも、もちろん愛情からきているんでしょうけど、もし子どもが苦しそうにしているのなら、それはちょっと罪だなぁと思うんです。

はじけるように喜んで、楽しく遊んで、笑っている ――そんな子どもの姿を見て、幸せになれる親であってほしいですね。


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