絵本作家インタビュー

vol.55 絵本作家 黒川みつひろさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、恐竜絵本のエキスパート、黒川みつひろさんです。子どもの頃から恐竜が好きだったとおっしゃる黒川さんに、恐竜の魅力や好きな恐竜のこと、絵本に込めたメッセージなどについてお話を伺いました。お子さんが恐竜大好きという方、必見! そうでない方も、恐竜絵本の楽しさを発見できますよ。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・黒川みつひろさん

黒川 みつひろ(くろかわ みつひろ)

1954年、大阪市生まれ。大阪市立美術研究所で絵を学ぶ。児童向けイラストレーターとして活躍し、恐竜絵本作家に。古生物研究についても造詣が深い。主な作品に『恐竜の谷』『絵巻えほん 新・恐竜たち』『けがをした恐竜 化石が語るティラノサウルスの話』(こぐま社)、「恐竜の大陸」シリーズ、「たたかう恐竜たち」シリーズ(小峰書店)などがある。
恐竜だいす記! http://blog.goo.ne.jp/jura2007

さまざまな資料を参考に、自分なりの恐竜を描く

『恐竜あいうえお』

▲「ア」ロサウルスから「ワ」ンナノサウルスまで、迫力あるイラストで、恐竜の名前とともに「あいうえお」を学べる絵本『恐竜あいうえお』(小峰書店)

恐竜が好きな子どもたちは、絵本をすごく細かいところまで見ていますね。この絵を描いてる人は本当に恐竜が好きで、恐竜のことをよく知っているのかってところまで、しっかり見分けるのです。だから、つくり手としては気が抜けません。

たいてい絵本一冊に半年ぐらいかけて、じっくりと描くようにしています。量産はできませんが、その分いいものをつくりたいなと思って。大変な工程はひとつもありません。アイデアを出すのもおもしろいし、たくさん出たアイデアの中からどれを採用するか迷うのも楽しい。徐々にできあがっていく過程をひとつひとつ楽しみながら制作しています。仕事部屋を散らかしすぎて片付けるのが大変、なんてことはありますけどね(笑)

恐竜に関する学説はどんどん新しいものが出てくるので、日ごろから最新の情報をチェックしています。10年前の資料が覆るなんてこともよくあるのです。衝撃を受けることもありますし、やっぱりそうだったのかというときもあります。いくつか違う説に出くわすこともよくありますが、そういうときは一番納得のいく説を参考に、自分なりの恐竜を描くようにしています。

恐竜の色や模様は、自分の好みで描くことも多いですね。この恐竜はこの色が一番似合うとか、こういう模様がかっこいいだろうとか。もちろん、恐竜の性質や生活環境なども考慮します。現代の動物でも、保護色とか迷彩模様とかありますよね。恐竜もそれと同じで、生きていくのに都合のいい色をしていたと思うのです。自分に手を出したら危ないぞと知らせる警戒色や、繁殖期であることを異性にアピールするような色などもあったでしょうね。その辺をいろいろ考えて描いています。

家族を大事にする肉食恐竜、ティラノサウルス

『けがをした恐竜―化石が語るティラノサウルスの話』

▲ティラノサウルスの骨格化石から黒川さんが想像した、ティラノサウルスの家族の物語『けがをした恐竜―化石が語るティラノサウルスの話』(こぐま社)

ティラノサウルスは、絵本でも映画でも悪役として出てくることが多いです。でも僕はティラノサウルス、好きですね。

最近の研究でわかってきたことなのですが、ティラノサウルスは雌の方が体が大きくて、子どもを少なく生んで大事に育てたらしいのです。非常に夫婦の絆が強くて、いったん夫婦になると死ぬまでずっと一緒だったのではないかといわれています。その辺が草食恐竜とはちょっと違うところなのですね。ティラノサウルスっていうのは、すごく家族を大事にする恐竜だったのではないかなと。

1990年にアメリカで、ティラノサウルスの雌の化石が発掘されました。全長13メートルという、世界最大の化石だったのですが、人々を驚かせたのはその大きさだけではなくて、その足でした。足に骨折した跡があって、それが治った痕跡があったのです。二本足で歩く肉食恐竜が一本でも足を骨折すると、歩くことができなくなってしまう。歩けないということは狩りができない、つまり食べ物にありつけない。でもこのティラノサウルスは飢え死にせずに生き延びたのです。

なぜだろう? 寝たきり状態の間、誰かがえさを運んだり、口移しで水を飲ませてあげたり、外敵が近づいたときには追い払ったりして、面倒をみたのではないか? そしてそれは家族がしたのではないか? 骨折の跡からいろいろなことを想像しました。

このことを自分なりに納得いくまで推測してつくったのが、『けがをした恐竜 化石が語るティラノサウルスの物語』という絵本です。ティラノサウルスの家族が支えあう様子を描きました。違う説を唱える人もいると思いますが、僕はこんな物語があったのではないかと考えています。

想像する楽しさを 恐竜絵本で味わおう

絵本作家・黒川みつひろさん

講演会では、僕の方から子どもたちに質問してみることもあります。たとえば、「恐竜はなぜ絶滅したと思う?」という感じで。恐竜に詳しい子ほど、恐竜絶滅の原因をたった一言、「隕石」と答えるのですね。恐竜の図鑑などで知ったことをそのまま答えているのだと思うのですが、僕としてはもっと考えてほしいなと。

確かに隕石も原因のひとつかもわからないですけど、それだけではなくて、地殻変動や気候変動、火山噴火など、さまざまなことが複雑に絡みあっていたのだと思います。ただ「隕石が原因」と覚えるのではなく、もっと他の要因も考えられるはずです。

子どもたちには恐竜の絵本を通して、いろいろな想像力を働かせてほしいなと思っています。絵本をきっかけにして恐竜や化石に興味を持って、やがては自分の言葉で、自分なりの説を唱えることができる大人になってもらえればと。僕の絵本がそのきっかけになれば、ものすごくうれしいですね。

恐竜を通して、地球の自然の不思議さ、おもしろさも感じ取ってほしいです。どんな小さな動物でも、生まれてから死ぬまでにはいろんなドラマがある、そしてそれは人間も同じなのだということも、わかってほしいですね。そこから命の大切さにも気づくだろうし、一日一日を大事に生きようってことにもつながるのではないかな。

絵本の読み聞かせは、“お母さんと子ども”という図式がちょっと多いかなと思いますので、お父さん方にもぜひ読んでもらいたいですね。子どもの頃、怪獣が好きだった方などは特に、恐竜の絵本だったら入っていきやすいと思います。家族全員で楽しんで、太古の地球から今の地球にいたるまで、思いを巡らせてもらいたいですね。


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