絵本作家インタビュー

vol.51 絵本作家 石津ちひろさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『くだものだもの』や『しりとりあそびえほん』などでおなじみの絵本作家・石津ちひろさんです。回文や早口言葉、しりとり、なぞなぞなどの絵本をたくさん生み出している石津さんは、まさに言葉遊びの達人! 石津さん流の回文のつくりかたや、子育て中の思い出、人気作の制作エピソードなどを伺ってきました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・石津ちひろさん

石津ちひろ(いしづ ちひろ)

1953年、愛媛県生まれ。早稲田大学文学部仏文科卒業。3年間のフランス滞在を経て、絵本作家、翻訳家に。『なぞなぞのたび』(絵・荒井良二、フレーベル館)でボローニャ児童図書展絵本賞、『あしたうちにねこがくるの』(絵・ささめやゆき、講談社)で日本絵本賞、詩集『あしたのあたしはあたらしいあたし』(理論社)で三越左千夫少年詩賞を受賞。『くだものだもの』(絵・山村浩二、福音館書店)、『しりとりあいうえお』(絵・はたこうしろう、偕成社)、訳書に「リサとガスパール」シリーズ(ブロンズ新社)ほか多数。

バレエの魅力満載!『白鳥の湖』

白鳥の湖

▲人気の高いバレエ作品を絵本にした「バレエ名作絵本」シリーズの第3作『白鳥の湖』(講談社)。絵は田中清代さん

「バレエ名作絵本」シリーズは、バレエに詳しい編集者さんから声をかけていただいてつくりました。チャイコフスキーの三大バレエ『くるみ割り人形』『眠れる森の美女』『白鳥の湖』を絵本にしたものです。娘が小学1年生の頃からバレエをやっていましたし、私自身も一時期、バレエ公演用プログラムの翻訳にたずさわっていたので、バレエの絵本をつくることができたのは大きな喜びでしたね。

『白鳥の湖』では、田中清代さんが本当にすばらしい絵を描いてくださって。清代さんはこの絵本のために、パリ・オペラ座まで行かれたそうです。バレエならではの身体表現を正確に描いてもらうために、うちの娘も協力してくれました。娘がポーズをとって、清代さんがそれを丹念にスケッチしていくんです。長いときは朝の10時から夜の10時まで、12時間もうちで下絵を描かれていたこともあったんですよ。

バレエに親しんできた方でも、舞台を観るときは、ダンサーの技術や表現などに目を奪われてしまうので、ストーリーについては、知っているようでいて、案外きちんと把握していなかったりするんですよね。『白鳥の湖』はバレエの中のバレエなので、特に思い入れがあって、最後の最後までこだわってつくりました。とても美しい、躍動感のある絵に仕上がっているので、バレエに興味のある方にはぜひ見ていただきたいですね。

絵本で楽しもう 親子のコミュニケーション

絵本作家・石津ちひろさん

▲『あしたうちにねこがくるの』のモデルになった猫を抱く石津さん。もう1匹はソファの下に隠れていました

娘とはよく一緒に絵本を読みました。寝る前には必ず3冊。こちらとしては、短めの本を読んで早く寝かしつけたいな、なんて思っているんですけど、意外と子どもは、長いものや表現のちょっと難しい絵本も好きなようで、選んで持ってくるんですよね。大人が考えるほど単純なものがいいとは限らないんだな、と思いました。もしかしたら、できるだけ長い間、声を聞いていたいっていうのもあったのかもしれないんですけどね。

以前は近所に絵本専門店があって、週に1~2回はそこで開催される読み聞かせ会に娘を連れていきました。母親や父親だけじゃなく、いろんな人の声で聞くっていうのもいいと思うんですよ。娘にとっても、いい経験になったんじゃないかな。

そんな風に絵本を読みながら育ってきたせいか、娘は言葉の選び方にすごく敏感なんです。なので今は、絵本の文章ができると、まずは娘にチェックしてもらっています。特に「リサとガスパール」だと、「この言葉は、ちょっと不自然」とか「こんなこと、リサだったら言わないと思う」などと指摘してくれるんですよ。

『なぞなぞのたび』や『なぞなぞのへや』といったなぞなぞの絵本も、最初は娘と一緒につくって遊んでいたのがきっかけなんです。なぞなぞなど言葉遊びの絵本が、親子のコミュニケーションのきっかけになってくれるとうれしいですよね。読むだけでなく、じゃあ自分たちでもつくってみようか、という感じで楽しんでもらえたらいいなと思っています。

息抜きのために、自分の好きな絵本も選んでみて

『ありがとう』

▲大切な人に伝えたい、さまざまな「ありがとう」を描いた絵本『ありがとう』(イースト・プレス)。絵はメグホソキさん

子育て真っ最中のときは気がつかないかもしれませんが、あとで振り返ると、子育て中は本当にキラキラと輝く宝物のようなものがいっぱいつまってたってわかるんですよね。私は33歳で子どもを産んだので、子どもが3歳になる頃にはもう30代後半。自分のことも客観的に見られるようになっていたので、すごく楽しく子育てができました。こんなに楽しそうに子育てをしてる人は見たことがない、と言われるくらい。

でも、親子の距離があまりにも近すぎると、大変なことばかりが目についてしまういがち。そういうときはちょっと距離を置いて、自分の状況を把握することが大事です。そうすれば、このひとときは本当はとっても貴重で、しあわせな時間なんだってことに気づきますよね。

そのためには、息抜きも必要だと思うんです。息抜きのためにも、子育て中のお母さんには、お子さんのために読む絵本だけじゃなくて、自分の好きな絵本も選んでほしいですね。自分のために読む絵本があると、元気にもなれるし、リフレッシュもできます。それに、ますます絵本が好きになると思います。「リサとガスパール」のシリーズは、ご自分が好きで買ってくださっている若いお母さんも多いんですが、そんな風に楽しんでいただけるといいんじゃないかしら。

私の父は最期のとき、みんなにありがとう、ありがとうって言いながら亡くなりました。その父が亡くなる前につくっていたのが、まさに『ありがとう』という絵本。ちょうど四十九日の法要のときに、完成した絵本が実家に届いて、驚きました。

内容はとてもシンプルで、「いっぱいびっくりさせてくれてありがとう」「笑わせてくれてありがとう」「同じ速さで歩いてくれてありがとう」といった感じなんですけど、講演会で読むと、年配の方などは涙ぐみながら「いい絵本ですねぇ…」と言ってくれます。今の世の中、いろいろと悩んでいらっしゃる方が多いようですが、暗い気分になってしまったとき、絵本がちょっとした光になれたら、すごくうれしいなと思います。


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