絵本作家インタビュー

vol.50 絵本作家 ひろかわさえこさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『ぷくちゃんのすてきなぱんつ』や『いちにのさんぽ』でおなじみの絵本作家ひろかわさえこさんにご登場いただきます。リズミカルな言葉で、子どもだけでなく大人も楽しい気分にさせてくれる、ひろかわさんの絵本。絵本づくりで大切にしていること、子育てについてなど、たっぷりと語っていただきました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・ひろかわさえこさん

ひろかわ さえこ

1953年、北海道小樽市生まれ。武蔵野美術大学商業デザイン科卒業。主な作品に「かばくん・くらしのえほん」シリーズ、「おやすみなさいのまえに…」シリーズ、(あかね書房)、「ぷくちゃん」シリーズ、「ことばであそぼ」シリーズ、『あめぽったん』『いちにのさんぽ』『あのやまこえてどこいくの』『ともだちになろうよ』(文・中川ひろたか)(以上アリス館)、『あさですよ!』(鈴木出版)、『声の森』(文・安房直子)、『やさいむらのなかまたち 春』(以上、偕成社)などがある。

中川ひろたかさんとの共作『ともだちになろうよ』

ともだちになろうよ

▲ひろかわさんが色鉛筆で描いたやさしいタッチの絵と、中川ひろたかさんによる心温まるお話『ともだちになろうよ』(アリス館)。

『ともだちになろうよ』とその続編『ぼくたちともだち』は、中川ひろたかさんとの出会いから生まれた絵本です。

絵本作家として初めて出した動物の絵本に、『ともだちになろうよ』と同じようなタッチの絵をいくつか描いていたんですね。中川さんと初めてお会いしたとき、「ああいう絵は描かないの?」って言われて。中川さんが私の絵本を見ていてくれたことに感激しました。でも、こういうタッチの絵はお話が書けないと使えないんです、だから書いて!って(笑) それから1年くらい経って、忘れたかなって思ってた頃に、中川さんがお話を書いてくれたんです。それが『ともだちになろうよ』でした。

主人公をワニとウサギにしたのは、男の子と女の子、それぞれの本質をうまく表現できる動物だから。中川さんと何がいいだろうねって話し合って決めたんですよ。

以前、中川さんの講演会に飛び入り参加して、ワニのカイ役を中川さん、ウサギのウー役を私で読み聞かせをしたことがあったんですけど、そんな風に、お母さんとお父さんでセリフを分けて読み聞かせるのもおすすめです。きっと出会いの頃を思い出して、仲良くなれますよ。

10年の時を経て生まれた『やさいむらのなかまたち』

『やさいむらのなかまたち 春』

▲きっと野菜が好きになる! 春においしい野菜を楽しく紹介する『やさいむらのなかまたち 春』(偕成社)

『やさいむらのなかまたち』のアイデアは、子どもたちと一緒にお絵描きしていたノートの中から見つけました。これはおもしろい、絵本にしたい! そう思って出版社に持ち込んだのは、実は今から10年も前のことなんです。なぜ出版までに10年もかかってしまったかというと、途中でいろいろ悩んでしまって、描くのをやめてしまったから。

キュウリさんは、顔のぶつぶつを気にしています。塩で洗ったらつるつるになりました。もっと洗ったらしなしなになってしまいました―― こんなオチで、いろんなやさいの特徴を紹介しようと思ったんですね。

ところがちょうどその頃、お笑いがブームになってきたんですよ。お笑い番組で、芸人さんが人の容貌をネタにして笑いをとっているのを、ちょっといやだなぁと思って見てたんです。うちの娘もアトピーを気にしていたものですから。でもよく考えてみたら、キュウリさんも一緒だって気づいたんですね。そうしたら、もうつくれなくなっちゃって……自分から、ボツにしてしまいました。

それから何年も経って、2年くらい前かな、「やっぱりあれつくりませんか?」と編集の方から声をかけてもらったんです。そんなに言ってくれるなら、もう一回考えてみようかな、と。そのときには、あまり考えすぎず、素直に野菜の個性をあったかく描いてあげればいいんだって、そう思えるようになっていました。

きっとあのときそのまま進めて本を出していたら、これでいいんだろうかっていう迷いが残ってしまったかもしれません。10年間ずーっと考え続けていたわけじゃないんですけど、その時間があったからこそ、我が子のようにかわいいって思える絵本にできたなと思っています。

『やさいむらのなかまたち』は、このあと夏・秋・冬と続いていくシリーズなので、今年は私、がんばらなくちゃ! 野菜の豆知識も載っているので、親子で一緒に見てもらえるといいですね。

絵本の読み聞かせは、子どもの安心につながる

絵本作家・ひろかわさえこさん

うちは子どもが小さいときに母子家庭になったんですね。生活が変化して、私自身も大変だったけれど、子どもたちも一緒にそれを乗り越えなくちゃいけなかった。そんなつらい時期、うちでは毎晩、絵本の読み聞かせをしていたんです。そうすると、子どもの情緒がすごく安定したんですよ。上の子が小学5~6年生になるくらいまで、読み聞かせをしていましたね。子どもの安心のためにも、寝る前の読み聞かせはすごくいいと思います。

それから、だっこもたくさんしてあげてほしいですね。「ぷくちゃん」シリーズに『ぷくちゃんのたくさんだっこ』という本があるんですけど、あれはあのシリーズの中で、私が一番つくりたかった本だったんです。

外に出ていっていろんな人と出会うようになると、子ども同士のせめぎあいみたいなものがあるじゃないですか。自分の場所を確保するためのなわばり争いのようなものが、子どもたちの人間関係の中でもあって、小学1年生とかでもすごくストレスを抱えてたりするんですよ。

そのときに、自分はお母さんに愛されているんだってことを体で知っているのと知らないのとでは、大きく違ってくると思うんです。そしてそれは、生きていく力につながるんですね。だから、たくさんだっこしてあげることが、すごく大事なんです。だんだん重くなっていくのでずっとは続けられませんけれど、子どもが小さいうちはがんばって、たくさんだっこしてあげるといいですよね。


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