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昨年復刊を遂げた、夏祭りの賑わいを描く名作(ロングセラー&名作ピックアップ Vol.191)

2018年7月12日

毎週木曜日は、ママ世代にとっても懐かしい、世代を超えたロングセラー&名作絵本をご紹介します。

 昨年復刊を遂げた、夏祭りの賑わいを描く名作

今回ご紹介するのは、五十嵐豊子さんの『えんにち』。1973年に月刊「こどものとも」の一冊として刊行され、1977年に「こどものとも傑作集」としてハードカバー化された絵本です。その後、長らく絶版となっていましたが、復刊の要望を受けて昨年4月に復刊されました。

兄妹がふたりで神社へと出かけます。境内では縁日の準備が始まっていました。しばらくすると、たくさんの夜店が並びます。綿菓子、いか焼き、お好み焼き、金魚売り…。日暮れとともに人出も多くなってきました。大人も子どもも楽しそうに夜店を覗いていきます。やがて、人もまばらになって…。

見開き

文章は1ページ目の「これから ふたりは、えんにちに でかけます」の一文のみ。夏祭りの賑わいや時の流れを、丹念に描かれた絵だけで伝える“文字のない絵本”です。

最初のページを「扉」と呼びますが、物語はまさにその「扉」で、兄妹が家の扉を開けて出てくるところから始まります。ページをめくると、俯瞰で描かれた神社の全体像。境内には人がまばらですが、よく見ると屋台骨を運んでいる人がいるのがわかります。兄妹は夏祭りを準備の段階から楽しんでいるのです。中盤にも神社の俯瞰図が登場しますが、その頃には夜店も出そろって、境内も賑わいを増してきます。

その他のページに描かれるのは、いくつもの夜店と、その前を行き交う人々。台詞はひとつもありませんが、絵をじっくり見ていると、子ども達の笑い声や会話が聞こえてくるようです。白から濃紺へと変わっていく背景が、時間の経過を物語ります。

最後のページは、兄妹の家の外観。中からは明かりが漏れています。お祭りから帰った兄妹が、お父さんやお母さんに祭りの様子をあれやこれやと報告しているのではないでしょうか。

文字のない絵本はどうやって読めばよいかと戸惑う方も多いかもしれませんが、親子で縁日をぶらついているような気分で、「たこ焼き、食べようか?」「お面はこれがいいな」などと声をかけあいながら読めば、お祭りの臨場感が存分に楽しめますよ。

<ミーテ会員さんのお声>
先週、幼稚園でお祭りごっこがありました。3歳の娘も、お面屋さんになったり、手づくりのおもちゃやお面を買ってきたり、みんなでジュースで乾杯したりと、楽しんできたようです。

『えんにち』は、字がほとんどないけれど、お祭りの屋台がたくさん描かれていて、娘が今大好きな絵本。今日は「あんずあめって何?」と娘に聞かれ、答えに窮していると、「りんごあめみたいなもの?」と娘が自分なりに想像して尋ねてくるのでびっくり。「あれ!? りんごあめって知ってるの?」と聞くと、「知ってるよ。幼稚園で売ってたもん」とのこと。思いがけないものを幼稚園で吸収してきて、絵本と現実がリンクする…楽しいひとときでした。(3歳8か月の女の子のママ)

絵本作家・西村繁男さんはインタビューで、この絵本を読んだことをきっかけに『おふろやさん』『やこうれっしゃ』といった文字のない絵本が生まれた、と語っておられます。あわせて読んで、文字のない絵本の世界を堪能してみてください。


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